アイリッシュハープ
雨の晴れ間に刻まれた昼下がり、私は東京都庭園美術館の庭園で開かれたアイリッシュハープの演奏会を訪れました。普段は美術作品と向き合う場所として知られるこの美術館ですが、この日は自然と音楽が寄り添う、少し特別な舞台へと姿を変えていきました。
会場では、芝生の広がる庭園の一角で、来場者は静かに開館を待ちます。ステージの装飾は最小限で、背景には瑞々しい緑と歴史的建築が控えています。そこに1台のアイリッシュハープが置かれ、奏者がそっと腰を下ろしました。
最初の一音が響いた瞬間、あたりの空気が変わったように感じました。アイリッシュハープの音色は、優しく、そしてどこか懐かしく、木々の葉を揺らす風と混じり合って、観客の元に届いていきます。演奏はアイルランドの伝統曲や即興的な旋律を交えながら進み、まるで自然と対話しているかのようでした。
とりわけ印象的だったのは、鳥の囀りや遠くの電車の音さえも演奏の一部のように感じられたことです。人工の舞台ではなく、開かれた空と地面の上で音楽が奏でられることで、「聴く」という行為が環境そのものと溶け合っていくような、不思議な感覚を味わいました。
演奏の終わりには、辺りがゆっくりと薄暗くなり始めました。拍手の余韻の中で、奏者が深くお辞儀をし、ハープの弦が微かに光を反射していたのが印象に残っています。
あの日、庭園の緑とアイリッシュハープの音が作り出したひとときは、単なる演奏会ではなく、日常から少し離れて深呼吸できるような、心の余白を与えてくれる体験でした。またいつか、あの静けさと音色に再び出会いたいです。
photo & text by Kazuya
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