金沢の日常が詰まった一皿

金沢を訪れると、豪華な海鮮丼や歴史ある和菓子など、分かりやすい名物に自然と目が向きます。しかし旅を終えたあとに強く思い出すのは、意外とそうした“有名なもの”ではなく、何気なく口にした一品だったりします。ガスエビは、まさにそんな存在でした。

ガスエビは正式には「トゲザコエビ」と呼ばれ、鮮度が落ちやすいため県外にはほとんど流通しません。そのため、金沢でしか味わえない特別なエビとして、地元では親しまれています。名前も見た目も控えめで、観光ガイドの中心に載ることは少ないですが、だからこそ出会えたときの喜びがあります。

このガスエビの唐揚げを初めて食べたのは、近江町市場でした。人の行き交う市場の通路で、魚介の匂いや威勢のいい声に囲まれながら注文した一皿です。正直なところ、最初は「せっかくだから食べてみよう」という軽い気持ちでした。しかし、揚げたてをひと口かじった瞬間、その考えはすぐに覆されました。

サクッと軽い衣の中から、殻ごと食べられる心地よい食感と、想像以上に濃いエビの旨みが広がります。噛むほどに甘みとほろ苦さが重なり、思わずもう1匹、もう1匹と手が伸びてしまいました。初めて食べたはずなのに、どこか懐かしさを感じたのが印象的でした。派手さはありませんが、この素朴さこそがガスエビの魅力なのだと思います。観光客向けに整えられた料理ではなく、港町の日常の中で自然に食べられてきた味。その背景を想像しながら食べることで、金沢という街の暮らしや時間の流れが、少しだけ見えた気がしました。

旅先で出会う「おいしさ」は、味覚だけの記憶ではありません。食べた場所の空気や音、そのときの気持ちまでも一緒に残ります。近江町市場で初めて味わったガスエビの唐揚げは、金沢という街を思い出すたびに、静かに蘇る大切な記憶のひとつになりました。

photo & text by niina

千葉の海辺で育った三兄妹の末っ子。ひとりで行動する時間が落ち着くINFJです。喫茶店でコーヒーを飲みながらぼーっとしたり、冬のひんやり澄んだ空気の中を歩くのが好き。日常の小さな好きや気分をゆるく発信しています。インスタにもぜひ遊びにきてね〜♬
Instagram:@nll_z3na

niina