静かなご褒美
ふと甘いものが食べたくなった。そんな日は、散歩に出ます。家から今まで歩いたことのない方向へ足を向け、新たな場所を開拓をするのです。
気まぐれに曲がった路地の先で、木の引き戸のお店に出会いました。看板は控えめで、知らなければ通り過ぎてしまいそうな佇まい。それでも、窓越しに漏れるやわらかな灯りが、不思議と足を止めさせました。扉を開けると、外の空気とは違う、甘くて静かな時間が流れ込んできます。
木のカウンターに腰を下ろすと、程なくして目の前に小さな舞台が用意されました。ステンレスの器の上に、どっしりとした重量のあるマフィン、いい焼き色のプリン、少し溶け始めたアイスクリームが三段に重ねられています。その隣には、白地に青い草花が描かれた陶器のマグが添えられ、木のトレーの上で景色を作っていました。
スプーンを入れると、プリンはほとんど抵抗もなく割れ、内部のなめらかさを正直に伝えていきます。ひと口食べると、卵のやさしい甘さが広がり、そのすぐあとを追うように、カラメルのほろ苦さが輪郭を与えてきました。溶けたアイスクリームが混ざるたびに、味は少しずつ変わり、同じ一皿なのに、違う表情を見せてくれます。
マグに口をつけると、温もりが手のひらから伝わり、甘さの良いんを静かに整えてくれました。歩いてきた道のこと、目的もなく曲がった角のこと、そうした偶然の積み重ねが、このひと口につながっていたのだと思うと、妙に納得がいきます。
甘いものを食べたかっただけの散歩は、いつの間にか、今日を少しだけ特別にする時間へと変わっていました。次にまた、理由もなく甘さを求めた時も、きっと同じように歩き出すのだと思います。
photo & text by Kazuya
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Kazuya
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