うちの子たち
実家に帰ってまず行うこと。それは、猫吸いです。二階建ての日本家屋を我が物顔で闊歩するうちの子たちを順番に捕まえていき、その子らの腹にそっと鼻を近づけます。逃げ腰の子もいれば、観念したように身を預けてくれる子もいて、その反応ひとつひとつが懐かしいのです。そうして柔らかな毛並みに顔を埋め、香りを肺の奥まで招き入れると、不思議と実家に帰ったという実感が湧いてきて、そこで暮らした頃の記憶や思い出が、静かに胸の奥から立ち上ってくるのです。
柔らかな毛並みに顔を埋め、微かに混じる日向の匂いを吸い込むたびに、時間はゆっくりと巻き戻されていきます。畳の冷たさ、夕方の台所から漂ってくる味噌汁の香り、縁側に差し込む斜めの光が輪郭を持たないまま、次々と浮かび上がってきます。猫のほんのり温かい体温は、それら全てを覚えているかのように、言葉を使わず、ただ静かに私を受け入れてくれます。
東京という都会で積み重ねてきた日々のざらつきも、言葉にできない焦りも、知らず知らずのうちに抱え込んでいた緊張も、猫の腹に顔を埋めているほんの数秒の間だけは、どこかへ溶けていきます。深く息を吸って、ゆっくりと吐く。その単純な動作を繰り返すうちに、ここでは急がなくていいのだと、身体が思い出していくのです。ここに帰ってきたのだと身体が先に理解して、心は少し遅れてそれに追いついていきます。
ふとした瞬間に、昔の自分と今の自分が、同じ空間に並んで立っているような感覚になることがあります。何かを成し遂げたわけでも、大きく変わったわけでもないけど、それでも確かに時間は流れてきたのだと、猫の静かな呼吸が教えてくれます。
猫吸いは私にとっての儀式であり、過去と今をそっと繋ぎ直すための、小さな祈りのような時間です。言葉にしなくても、理由を探さなくても。猫の体温と香りがあれば十分なのだと、この家に帰るたび、改めて思い知らされるのです。
photo & text by Kazuya
絵画。彫刻。建築。工芸。散歩。カフェ。音楽。映画。猫。犬。歴史。花。食事。コーヒー。文房具。機械。 PC。漫画。ゲーム。アニメ。いろいろなものに興味を持ち、いろいろなものが好きな男の子。毎日、新しい“好き”に出会えるのが楽しくて、つい夢中になっていく。
Kazuya
instagram:@_____kandly_____