ありふれたものの尊さ

その店は大通りを一本外れた通りにあります。

店頭には昔ながらの色の褪せた料理サンプル、赤提灯。

引き戸を開ければ、炒め物の香ばしい匂いが鼻をくすぐり、お腹がギュンと鳴ります。

壁一面に貼られた短冊の手書きメニュー。さて、今日は何にしよう。

隣のサラリーマン風の人が食すスタミナ定食にも惹かれます。向かいの大学生はカツ丼大盛り。カウンターではお爺さんが冷奴でビールを飲んでいます。ちなみに、女性客は見当たりません。皆一人で黙々と目の前のご飯と真剣に対峙しています。

おっと、壁の定番だけでなく窓に貼られた限定メニューの確認も怠ってはいけません。本日の限定オムハヤシ700円。

悩んだ挙句、魚を摂取してDHAを補給するべきなのではという思いに駆られ、おじさんが顔を上げた隙を見計らって、大声で「サバみそ煮定食」とコールした。「はいよ!」という返答に一安心。

そう、ここではおじさんの返答がないと注文が通ったことにはなりません。コールのみで安心し、来ない料理を延々と待つという涙の経験を重ねた末に得た鉄則です。

おばさんが運んでくれる、骨までとろけるサバ味噌煮。DHAのみならずカルシウムまで補給とは。ご飯大盛りにしたいところだがプラス150円は一人暮らしにはイタいです。

次々と食事を終えた客が席を立ちます。

魚の骨も皮も有難くたいらげ、最後の味噌汁を飲み干してご馳走様。

レジに立ったら、おばさんが何やらソッと手渡してきました。見ると、伝説の「ご飯大盛り無料パスポート」。

通うこと数十回、やっと常連客のみが持つことを許される秘宝のパスポートを手に入れた瞬間でした。

定食屋は、街の宝、日本の宝です。

※写真は最近食した焼肉定食。

photo & text by レオナ

一人暮らし歴4年目。掃除とゴミの分別が得意になった。インドア族なので太陽の光がまぶしすぎるとしおれる。部屋の模様替えが趣味で、そろそろインテリアの大改造にも着手してみたいと目論んでいる。

レオナ